Kama Hopkins × Keao Costa 対談 第2話|家族の中にありすぎて、価値に気づかなかった音楽

Hawaiian Music Archive / Chapter 2

家族の中にありすぎて、価値に気づかなかった音楽

人物Kama Hopkins(カマ・ホプキンス)Holunapeなどで活動するハワイアン音楽家。本章では、家族の記憶と現場で身につけた奏法を語る。人物Keao Costa(ケアオ・コスタ)歌手・ベーシストとして活動するハワイアン音楽家。本対談では、Kamaさんの家族と学びの記憶を引き出す。の対談第2話。第1話で語られた家族、友人、現場から育った音楽のルーツを受けて、今回はさらに家族の中へ入っていきます。祖母がリビングで歌を教えようとしていたこと、家族のパーティーでプロもアマも当たり前のように歌い、弾いていたこと。そして、それが特別な文化の継承だったと気づいたのは、ずっと後になってからでした。

企画: アロハケーキ株式会社 / 代表 日下貴博
聞き手: Keao Costa
出演: Kama Hopkins / Ka Leo Sakura / Holunape
構成・編集: Lani Records
Kama Hopkins と Keao Costa の対談 Chapter 2
日下貴博

企画原案のご挨拶

日下貴博より

皆さんこんにちは。
日下貴博です。

私が20年以上ハワイの音楽を続けて、その中でたくさんのハワイのミュージシャンやクムフラにお会いして、素晴らしいリレーションシップを持つことができました。

普段の会話の中からも、ハワイの方々の文化に対する深い考えや、勉強になる考え方を伝えてもらえることが多々ありました。

私が直接のスピーカーになるよりも、本人たちの声をそのまま届けられるかと思い、このような企画を考えてみました。

ハワイを愛する皆様が楽しんでいただければと思います。

対談動画

字幕は動画プレイヤーの設定から切り替えられます。この記事は、対談内容を読み物として再構成したレビュー版です。

家族の中にいると、価値には気づきにくい

第2話の冒頭で、KamaさんはKeaoさんとの旅の中でよく話していたことに触れます。

Keaoさんは、子どもの頃から周囲の音をよく聴き、よく見ていた。 一方でKamaさんは、自分ももっと注意深く聴いておけばよかった、と振り返ります。

Kamaさんの祖母は、家のリビングに子どもたちを集め、いろいろな歌を教えようとしてくれました。誕生日の歌でさえ、ただ全員で同じメロディを歌うのではありません。

「あなたはここのパートを歌って」

そうやって、それぞれに違うパートを歌わせる。 聞こえないと、もっと大きく、と促す。

けれど、そのそばで祖父が「アニメを見るか?」と声をかけると、子どもたちは一斉に逃げ出してしまう。祖母が「Tony、今歌を教えているのよ」と言う。

この場面は、どこか笑ってしまうような家族の記憶です。 でも同時に、あとから振り返ると、とても貴重な音楽教育の場でもあります。

Kamaさんは、家族の中にいたからこそ、その家族の名前がどれほど知られていたのか、周囲にどれほど音楽的な遺産があったのかを、当時はよくわかっていなかったと語ります。

外から見ていたのではない。 その中にいた。

だから、それが特別なことだとは思っていなかった。

KAMA ON KEAO / 字幕から見えること

Kamaさんが、何度もKeaoさんを立てている

この回でKeaoさんは、質問する側にいるだけではありません。Kamaさんは、自分の記憶や学びを語る節目ごとに、Keaoさんを「聴ける人」「先に学び取っていた人」「信頼する演奏家」として置いています。

00:00:04–00:00:13

「Keaoは本当に賢かった。よく見ていました」
Kamaさんは冒頭から、Keaoさんの強みを「注意深く見て、聴いていたこと」として語ります。

00:02:14–00:02:37

「Keaoが思い出させてくれた」「Keaoみたいに、もっとちゃんと聴いて、その時に学んでおけばよかった」
Keaoさんの聴き方が、Kamaさん自身の記憶を呼び戻す基準になっています。

00:12:44–00:12:58

「彼の方がうまいです。ベースもʻukuleleも歌も」
楽器を持ち替える話の中でも、KamaさんはKeaoさんの演奏力と歌を自然に高く評価します。

00:19:41–00:19:51

「Keaoたちとも演奏し始め、自分の家族のようなつながりを作っていった」
血縁の音楽を語ってきた回の終盤で、Keaoさんとの関係もまた、新しく作られた音楽の家族として置かれます。

日本語は正規化字幕をもとに、前後の意味が伝わる範囲でまとめています。

どの家族も、こういうものだと思っていた

Kamaさんの話には、母方の家族、グループThe Bee SistersMomi Beeさんら姉妹が歌ったグループ。時期により構成が異なるため、本章では家族の歌唱活動を示す名称として扱う。人物Aunty Genoa Keawe(ジェノア・ケアヴェ)長い演奏歴と独自の歌声で知られるハワイアン歌手。本章では、Kamaさんがベースを弾くことになった現場の中心人物。へつながる音楽の記憶が何度も出てきます。

家族の集まりに行けば、誰かが歌い、誰かが弾く。 プロとして演奏していた人もいれば、そうではない人もいる。 けれど、みんなが同じように音楽を持っていた。

Kamaさんにとって、それは「自分の家が特別だった」というより、「どの家族もこういうものだと思っていた」ことでした。

ここが、この対談の面白いところです。

外から見ると、ものすごい音楽的な環境に見える。 でも内側にいる本人にとっては、ただの家族の時間だった。

だからこそ、後になって自分が音楽家として歩み始めたとき、その記憶が一つずつ意味を持ちはじめます。

祖父の声、祖母の音楽用語ギター本章では、ベースの音程関係を視覚的な形として覚えるための代用楽器。後半では15分で実演へ入る楽器にもなる。、叔父の音楽用語コード(和音)複数の音を同時に響かせる和音。本章では、同じメロディでも伴奏の選び方で響きが変わることを示す。

Kamaさんは、祖父が祖母に最初にギターを教えた人だったことを、後になって知ります。

祖父は低く、美しい声を持っていました。 Kamaさんは、祖父が祖母を見ながら歌っていた姿を覚えています。

音楽の記憶は、譜面や録音だけに残るものではありません。

誰が、誰の前で歌っていたのか。 どんな声で、どんな目線で歌っていたのか。

そういう小さな家族の時間も、Kamaさんの中に残っていきました。

また、親族の一人に新しく覚えたコードを見せたときの話も印象的です。

Kamaさんが弾いていると、叔父はまったく違うコードの響きで歌い始めます。Kamaさんは「何のコードを弾いているんだろう」と驚く。

その親族は、ソロで弾くなら、メロディを歌いながら音楽用語ハーモニー異なる音や声部を重ねて一つの響きを作ること。ここでは、独奏でも歌の旋律を和音で支える考え方を指す。を弾く必要があると伝えます。全部が一つの大きな音になるように。

Kamaさんは、今も学び続けたいと語ります。

対談収録時に発言時点 / 年齢対談収録時の年齢Kamaさんが対談収録時に語った年齢。恒久的なプロフィールではなく、「何歳でも学び続ける」という発言の前提。だったKamaさんは、「学ぶのに遅すぎることはない。弾き続け、学び続ける」と語ります。

その姿勢そのものが、この章の大切な軸です。

ベースは「音楽技法 / 覚え方L字のベース・シェイプKaipoさんから教わったという、指板上の音の位置を形で覚えるための目印。一般理論ではなく本対談の学習法。」と「音楽技法 / 覚え方ダイヤ型のベース・シェイプ指板上の音の位置を菱形として捉える覚え方。L字と同じく、Kaipoさんから受け取った実践的な記憶術。」から始まった

第2話では、Kamaさんがベースを覚えた話も語られます。

施設Polynesian Cultural Centerオアフ島Lāʻieにある、ポリネシア各地の文化を紹介する施設。Kamaさんが楽器を持ち替えながら学んだ職場。で、当時施設内エリアIsland of Hawaiʻi(対談ではHawaiian Village)Polynesian Cultural Centerでハワイ文化を紹介する村エリア。公式サイトの現行表記は「Island of Hawaiʻi」。と呼ばれていたハワイ文化の村エリアで働いていた頃、現場では楽器を持ち替えることがありました。そこでKaipoさんから、ベースにつながる考え方を教わります。

当時、手元に音楽用語アップライトベース(ダブルベース)床に立てて演奏する大型の低音弦楽器。ここでは、ギター上で覚えた音程の形を実物へ置き換えて学んだ。はなかった。 あったのはギター。

だからまずギターの形で教わり、あとでアップライトベースに置き換える。

何年も経ってから、Aunty Genoaさんの演奏でベースが必要になったとき、Kamaさんは再びその記憶をたどります。

古いベースを家から出し、曲を聴き、音楽用語ʻukulele(ウクレレ)ハワイで広く親しまれる4弦楽器。ここでは曲のキーを確かめ、ベースで弾く音の位置を探す手掛かりになる。音楽用語キー(調)曲の中心となる音と音階のまとまり。本章では、録音を聴きながらベースで使う音の位置を割り出す基準。を探し、音の場所を確認していく。 Kaipoさんから教わった、指板上の音を「L字」や「ダイヤ」の形で覚える方法を頼りに、実際の現場へ向かっていきます。

そして本番の途中で困ったとき、その場にいた女性がさらりと言います。

「あなたはʻukuleleを弾いて。私がベースに入るから」

Kamaさんは、その人がベースを弾けることを知りませんでした。

この対談では、こういう驚きが何度も出てきます。

知っていると思っていた家族の中に、まだ知らなかった音楽がある。自分より前の世代は、思っていた以上に多くの楽器を弾けた。

15分の休憩でギターを覚える

ギターの話も、Kamaさんらしい現場感にあふれています。

施設 / 演奏会場Shore Bird Restaurant & Beach BarOutrigger Reef内にあったWaikīkīのレストラン。Kamaさんが客席を回る演奏の現場で楽器を覚えた場所。で一緒に演奏していた地名Kauaʻi(カウアイ島)ハワイ諸島の主要島の一つ。本章ではTweety Juarezさんの出身地として、演奏仲間の背景を示す。出身のTweety Juarezさんが、ある日こう言います。

「疲れたから、あなたがギターを弾いて。私がʻukuleleに替わる」

Kamaさんが「ギターは弾けない」と返すと、Tweetyさんは驚きます。

「ここで働くなら、ギターもʻukuleleも弾けるはずでしょう」

そして、15分の休憩中に、移動できる音楽用語barre chord(バレーコード/セーハ)一本の指で複数弦を同時に押さえ、同じ形を移動して別のコードを作る奏法。短時間で実戦へ入る鍵になった。の基本形を教えてくれた。

その夜の残り時間、Kamaさんはギターを弾きました。

もちろん、TweetyさんはKamaさんに合わせてくれた。 けれど、それでも「その夜に覚えて、その夜に使う」という現場の速度があります。

後に祖母がKamaさんのギターを見て、「それは教えていないけど、私の弾き方だよ」と言う。

ここにも、第2話の主題が戻ってきます。

本人は初めて学んだつもりでも、実はずっと近くにあった。 家族の中にあった音が、現場を通して、自分の手に戻ってくる。

受け継ぐものは、あとから見えてくる

Kamaさんは、家系 / 固有名詞Hopkins側(父方の家族)Kamaさんが父方の家族を指して使う整理語。本章では、父・祖父・曾祖母らにも音楽の記憶があったと語る。の家族にも音楽があったことを語ります。

父はギターを弾き、祖父は美しい声で歌った。 祖父にとって歌は、癒やしでもあった。

さらにKamaさんは、人物 / 作曲者Louise Hart Hopkins「Aloha Kuʻu Home Kāneʻohe」の作者として音楽アーカイブに名が残る人物。Kamaさんは父方家族とのつながりを語る。、Grandma Catherineさん、家系 / 固有名詞Davis家(対談内の家系説明)KamaさんがAdolpho側の家系につながると語る姓。外部系譜で確認できていないため、本人の家族史として読む。、Cummings家、Isaacs家などの名前を挙げ、家族のつながりを語ります。

ただし、ここで大切なのは、名前の多さそのものではありません。

Kamaさんが、あとから気づいていくことです。

子どもの頃は、叔父の友人だと思っていた人たち。 家族のパーティーにいた、ただの親戚や知り合いだと思っていた人たち。

大人になってから、その人たちがどれほど大きな音楽家だったかを知る。

自分がどれほど濃い音楽の中にいたのかを、あとから知る。

その驚きが、この章にはあります。

Lani Records編集部の視点

この対談から、二つのことを受け取る

Lani Records編集部では、この対談を「実践の学び」と「文化の記録」という二つの角度から読みました。同じ言葉でも、見る角度を変えると、持ち帰れるものが変わります。

学びの視点

「よく聴く」は、才能ではなく練習できる

KamaさんがKeaoさんを評価している中心は、派手な技術よりも、音・人・場を注意深く観察していたことです。

  • お手本を聴き、すぐに自分の音を録る
  • 誰の歌を支える音なのかまで考える
  • 一度覚えたつもりでも、先人の音へ戻る

お手本を聴き、自分で声や演奏を確かめ、もう一度お手本へ戻る。この「聴く→試す→戻る」を、自分の習慣にするための言葉として読めます。

アーカイブの視点

特別な文化ほど、内側では日常に見える

Kamaさんの家では、プロもそうでない人も自然に歌い、弾いていました。本人には普通だった時間が、後から文化の継承だったと見えてきます。

  • 曲名だけでなく、誰がどこで歌ったかを残す
  • 家族や現場の小さな記憶を文化資料として聴く
  • 「有名だから」ではなく、生活にどう存在したかを見る

演奏の正解を急ぐより、音楽の背景にある人間関係や土地の記憶を受け取る回として楽しめます。

この章から見えてくること

音楽を学ぶというと、どうしても「正しい発音」「正しいコード」「正しい歌い方」に意識が向きます。もちろん、それらは大切です。

ただ、Kamaさんの話を聞いていると、それだけでは曲の輪郭が全部見えるわけではないのだと感じます。

誰から聴いたのか。 どんな場で覚えたのか。 誰の歌を支えるために弾いたのか。 どの音を、どの世代から受け取ったのか。

音楽文化ハワイアンミュージック本章では一つの様式名だけでなく、家族・演奏現場・人間関係を通して受け渡される音楽として語られる。は、音だけではなく、人の関係の中で残っていくものでもあります。

Kamaさんは、家族の中にありすぎて気づかなかった音楽を、あとから一つずつ受け取り直していきました。

その時間のかかり方も、ハワイアンミュージックのひとつの姿なのかもしれません。

この章は、Kamaさんの家族の記憶を通して、音楽がどのように人から人へ渡っていくのかを見せてくれる回です。